「な、何を言って……?!」
「ねぇ、カイヤ先生。死んだ人って、もう二度と帰ってこないんよ。
どんなに大好きで、会いたくて、夢にまで見たって、もうどこにもいないんや。
でもクレイズ先生はまだ生きとる。助かるかもしれない。カイヤ先生だってそう思ってコレ作ったんやろ?
うち、カイヤ先生大好きやから。ずっと憧れてる人やから。手助けできるのなら、うちは喜んで協力する」
「だ、ダメです。絶対ダメ。ハイネさんだけはダメです!
もし失敗して、アナタに何かあったら、私はメノウさんにどんな顔すればいいんですか……!!」
カイヤの手が震えている。
彼が命懸けで託した娘であるハイネを前に、ここまでの6年間の日々が脳裏をよぎる。
それでも、ハイネは屈託なく笑っていた。
「大丈夫やて!
おとん、いつもムスッとしてたけど、うちがやりたいって言うた事を止めた事ないんです。
やりたいなら好きにやれって。ただしそれは自己責任やて」
「じ、自己責任……?!」
「自分がやりたくてやった事。その責任を他人に押し付けんな、っていっつも言われてたんです。
そんな事言うおとんが、もしうちがやりたくてやって失敗して何かあったところで、カイヤ先生を恨むと思います?
……そう、“うちがやりたい”んです。世界線観測」
あまりの真っ直ぐな言葉に、カイヤの方が面食らう。
なんだか、こんな風に揺るぎない度胸を持っていた人物を知っている……ような、気がする。
ふう、とため息をついたカイヤは、観測器の組み立てを始める。
「私が言えた立場じゃないかもしれませんが……
これから背負うかもしれないリスクを、まだ学生であるハイネさんが1人で背負って行けるなんて思えません。アナタはまだ幼いから。
……でも、正直とても嬉しいのもまた事実。
となれば、後は私が決意するだけです」
観測器から伸びる、頭部に被る器材をハイネに渡す。
「これでも私ももう大人ですから。私も私なりの責任を負います。
もしこれでハイネさんがリスクを負ったなら、私が生涯かけてアナタの未来を約束します。
これくらいは当然です。だから安心して、アナタはこの装置によってもたらされた結果を私に報告する務めを果たしてください」
「もう、気張りすぎやて、カイヤ先生。
でも期待しとって。バッチリ見てきてあげますさかい!」
渡された器材を被る。不安よりも好奇心が勝っている。
器材から送られてくる脳波の波形の記録を始めたカイヤは、観測器に数字を打ち込み、スイッチを押す。
ザザ、と雑音のような音が出始めた。
「とりあえず、まずはここから一番近い座標を設定しました。
体調は大丈夫ですか? 気分が悪かったりとか……」
「なーんにも。これって待ってたらなんか見えてくるんかな?」
「私もどういう風に他の世界を認識できるのかはわからなくて……ん?」
「どうしたん、先生?」
観測器に打ち込んだはずの数値が乱れ始める。
おかしい。この挙動は見た事がない。なぜ?
「ハイネさん、装置脱いで!」
「え?」
「早く!」
「何が……――」
フッ、と視界が暗転した。
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