布を被っていたのは丈夫そうな木箱だった。
蓋を外してカイヤが取り出した物は、例えるなら最近この世界で流行りだした蓄音機に似た形状の機械。
「な、なんですかこれ?
音楽聞くやつですか?」
「まぁ蓄音機にヒントを得たのは否定しません。
――これは、『世界線観測器』。先程お話した、他の世界を観測するための簡易的な機械です」
「……なんか、しれ~っとエラい発明してません?」
「まだ完成には程遠いです。それに、観測できるだけで細かい環境まで見る事はできないですから。
他の世界が、この世界からどれくらいの距離の座標に位置しているのか、数字でわかるだけ。
後はその座標に被験者の五感を飛ばせたら、及第点なのですが……
試すにしても、躊躇ってしまって」
そう言って、カイヤは渋い顔をする。
「カイヤ先生、なんでこんなもの?
ただの好奇心……ってわけでもなさそうですけど」
「そう、ですね……。
なんというか、私もそろそろ焦り始めたというか」
観測器にそっと触れながら、閉ざされた扉に目をやる彼女。
「博士は6年間ずっと、ひたすら深く眠り続けている。
ただ、ここ最近は何となく……衰弱が見えてきたんです。
このままではそう遠くないうちに、眠ったまま、衰弱死してしまうかも……しれなくて。
私の手が遅くてあの人を死なせてしまった、なんて悔いても悔いきれない。
だから、少し近道をしたくてコレを開発したんです。
私が思うに、解毒剤の発明に至るまでに必要な知識のカケラが、博士が元々住んでいた世界にはあるのかもしれないって。
博士を苦しめている毒は、そもそもそっちの世界で生まれたものだから」
――でもこの機械は、一歩間違えば“この世界”の今後を左右してしまうかもしれないほどの代物。
「アンリ先生にだって言えないですよ、こんなものを作っただなんて。博士も、怒るだろうなぁ。
せっかく人為的でない歴史に修正されたこの世界なのに、私はまたそのきっかけになってしまいそうなものを作ってしまったんですから。
……エゴでしょう?
学者失格かもしれないですね、私」
「そ、そんなこと!!
うち、まだまだ未熟やけど……カイヤ先生がそこまでしてでもクレイズ先生を助けたいって気持ち、わかる……気がするから」
ハイネは自分の胸元に揺れる銀の指輪のネックレスに触れる。
「何も知らん子供のままは嫌や。うちは何だって知りたい。
もっと早くから気付いていれば、おとんだって……!」
父の遺品である指輪をぐっと握りしめる。
そうして、ハイネは立ち上がったのだった。
「カイヤ先生、その世界線観測器の最初の被験者。うちがやります」
-07-
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