「先生! コーヒー買ってきましたぁ」

研究室の扉を開けたハイネは、目の前に広がる大量の本の山に苦笑いする。
彼女の元気な声の返事代わりに、ドサドサと本がなだれ落ちる。

「も~……。カイヤ先生、また文化的な生活してないんやろ~?
整理整頓せな、ってうちいつも言ってますやん~」

「わ、わかってはいるんですよ。わかっては。
暇がなくて……」

「コーヒーもほどほどに。徹夜ばっかりしてはるとお肌に悪いですよ~?」

「それも……はい……わかってはいるんです……」

決まりが悪そうに頬を掻くカイヤは、ハイネの荷物を適当な場所に置くよう話題を逸らす。

「あっ、そうそう、差し入れも買うてきたんですよー。お茶菓子。コーヒーに合うかと思って!
息抜きしません? うち、コーヒー入れます!」

「そうですね。お願いします。
あ、ハイネさん用のカップとお砂糖は向こうの棚に移動しました」

「向こう?」

キョロキョロと見回したハイネは、棚の在り処を探す。
一体どこの棚だろう。彼女は特に何も考えずに奥の部屋への扉に手を伸ばす。

こちらに背を向けて机に向かっていたカイヤは、ドアが開く音を聞いて飛び上がった。

「あっ、そっちじゃな……――!!」

「ひゃあっ?!」

短く悲鳴が上がった。





腰を抜かしているハイネから、扉の向こうの光景を覆い隠す。
後ろ手に扉を閉めたカイヤは気まずそうに視線を逸らした。

「せ、せんせ……、今、そこに……」

「……ハイネさんには、まだちゃんとお話していませんでしたね。
口外しないと約束してくれるのなら、ご説明します。
コーヒーでも飲みながら……」

傍の棚からハイネの私物のカップを手渡し、カイヤはソファの方へ歩み寄る。


-05-


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