ようやく自室に戻った頃には明け方近かった。
これで数刻後には全世界行脚の挨拶まわりが始まるというのだからため息の一つや二つ許されたい。
窓の向こうは寝静まった王都だ。
空が青白く染め上がり、ウミネコが寝ぼけた声を上げ始める。
しばらく見つめていると、燃えるような朝焼けが視界を焦がした。
――ありがとう、コーネル。嬉しいよ。私も君が大好きだ!
不意にあの声が蘇る。
新しい1日の始まりと共に去っていったあの姿。
彼女越しに見た朝日と、今目の前の光景が重なる。
彼女への想いの答えは、わからない。
それを知るのはジストしかいない。
如何様にも解釈できる答えを残され、コーネルは呆然と朝日を見つめるだけ。
ラズワルドに嘘を吐いてしまった。
『そのうち』の“その時”など、二度と来ないのに。
「あぁ、クソッ。馬鹿馬鹿しい」
やり場のない複雑な気持ちを開け放たれた窓にぶつけようとして、やめた。
もう少し、この懐かしい朝を感じていたかったからだ。
これから何年も、もしかしたら一生、“この時間”に囚われてしまうのかもしれない。
――なぁ、ジスト。どこかで同じ空を見ているんじゃないか?
――そんな夢くらい見たって、怒らないだろ?
悲しくない、なんて嘘。
寂しくない、なんて嘘。
『お前』が隣にいてくれたら、どんなに心強かっただろう。
「アクロ、お前の気持ち……こんなに重かったんだな」
コーネルは机の引き出しの奥深くに黒い銃をそっと収めた。
二度と使うまいという誓い。
次にこの銃口が向く事があれば、それは己の胸へ、だろう。
俺は王になる。
その役目をやり遂げた時、きっとまたお前に会えると信じて。
「飲みすぎたかもしれないな」
そんな独り言をこぼして、束の間の夢の中へ。
その青い瞳が閉じた後、頬を伝うしずくが小さな海を作っていた。
【Another Chronicle 後日談 “暁の空へ”】
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