遺された小さな娘を抱え、メノウは立ち尽くす。
この子を抱えて、これから先、たった1人で生きていけるのだろうか。
この先の未来を生きる意味があるのだろうか。



気付けばナイフを握り、スヤスヤと眠っている娘に切っ先を向けていた。
それでも。その血迷った判断を最後の良心が留めてくれた。
そしてその決断を下そうとした愚かな自分を責め、自分の首筋に刃を添える。
呷れるだけ呷った睡眠薬が、彼を深い眠りへと誘う。
あぁ、このままお前の元へ行けたのなら・・・――





まだ来てはいけない、と誰かが追い返したのかもしれない。
再びメノウが目を開けた時、そこにいたのは、ギルドで出会っていた顔馴染みだった。
彼の目覚めを泣きながら喜び、そして取り残されていた娘を代わりに愛しげに抱えてくれていたその女性。



どうやら、まだまだ生きなければいけないようだ。
腕の傷より更に深い爪痕が、心に重くのしかかる。

もう一度希望を持って立てる日が来るのはいつになるだろう。





それから数年後。
懐かしい面影と出会う。

一途に、そして頑固に、自分の意志を曲げない、よく覚えのある性格。
かつて亡くした愛する人と同じ年頃の、世間知らずなお姫様だ。






【Another Chronicle 前日譚 “愛しき影に花束を”】




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