――あれは、どれくらい昔の事だったか。


焦土に取り残された俺は、今まさに逝こうとするお前の身体を膝に抱いていた。

「逝かないでくれ・・・」

消え入りそうな言葉を必死に押し出せば、虚ろな瞳のお前は微かに笑う。

「そんな顔をするな・・・。
私も君も、十分戦ったよ」

最期の時を君の傍で迎えられる。
それだけで、私は幸せなんだ・・・――

どこまでも澄んだ瞳で、無垢な笑顔で、お前は永遠の眠りについた。
母を亡くして以来、流す事を忘れていた雫が俺の目から零れ落ちる。

代われるものなら代わってやりたい。
俺はお前を守る為に生きていたのに。
お前を救えるのなら、こんな命、いくつでもくれてやるのに。

どうして運命とはこんなにも残酷なのか。

神というものがいるのだとしたら、これ以上、俺から一体何を奪おうというのか。



「もしその“神”というものが、目の前にいたとしたら?」

友の亡骸を抱く俺の前に現れた“そいつ”は、甘い毒の囁きを紡ぐ。
何処から来た誰ともわからないそいつは、俺を終わらない迷宮へと誘い込む。

「どんな水底よりも深い深い君の愛。それは時空をも超えるだろう。
さぁ、お行きなさい。歴史を渡る若き旅人よ」

その瞬間から俺は、数多のいかなる歴史からも切り離された存在となった。
ただ“友を守る”という信念だけを軸にした、どこの誰でもない存在。



どの世界の俺も、愚かで、矮小で。
それでもやっぱり俺は“お前”と共にある。
いついかなる時も、どんな時も、今でさえも。

時には成り代わり、時には見守る。
例え本当の“お前”ではなくとも、生きている“お前”を見るのは何物にも代えがたい、かけがえのない時間だった。
そして俺は、いくつもの世界を見た果てに1つの真実へと辿り着く。

“お前”は、俺が生まれた世界の歴史上でも、あるいは有り得たかもしれない世界の歴史でも、必ず理不尽な死を迎える。
どんなに手を尽くしても、ただの1度も救えた事がない。
まるで見えない何かが、お前が生きる道を妨げているかのように。

友を救うための存在であるはずの俺は、いつの間にか、お前の死を延々と見せつけられる地獄に落ちたんだ。

何故あの時、“あいつ”の囁きに乗ってしまったのか。
どうしてあの時、“お前”の後を追えなかったのか。

何度後悔したかもうわからない。
何度お前の死の歴史を繰り返したのかもわからない。数えるのを諦めた。
人の寿命を何度も繰り返すような、途方もない時間、進まない歴史を右往左往しているだけ。
お前が死んだら、俺は別の歴史に渡る。
そしてまたお前の死を見て、俺は別の歴史に渡る。
お前の死の先に、俺の未来はない。

俺は愚かで、矮小だから。
お前をこの手で救える歴史を探して、終わらない旅を続けているんだ。
『どうかここが終着点でありますように』と祈りながら、何度も、何度も、何度も何度も何度も・・・――




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