ジストの右手には指輪が4つ。
残すはレムリアが持っているロンディネの指輪だけだ。
それさえ確保できれば、最悪の事態は免れるだろう。
とはいえ、だ。

「このままリアンに挑むために黒の国へ向かったとしても、およそ勝ち目はないだろう。
彼は三賢者に数えられる賢者の中の賢者だ。
何か一手、こちらに切り札となる力がなければ・・・」

ジストはうんうん唸っている。

「そういえばさ、レムリアさん、アクイラ王家には“風を召喚する力”があるって言ってたよね?
もしミストルテインにカルセを連れて行ったら、何か起きたりするのかな?」

「アンバーさんって意外にたまにイイ事言うんですよね。たまにですけど」

「カイヤんひどい! 2回も言わなくてよくない?!」

アクイラ王家に伝わる“風を召喚する力”。
恐らくは大魔法の類を示した言葉ではあるだろう。

「なるほど・・・。もしかしたらカルセが我々の切り札になり得るかもしれないという事か」

「・・・僕、そんなにすごい人間なのかなぁ」

自信なさげにカルセは呟く。

「そうだな。カルセのここ最近の召喚術には目を見張るものがある。
そのルーツを探るためにもミストルテインに向かってみるか!
リアンに一矢報いる必殺技のようなものが会得できるかもしれない!」

「ううっ・・・。期待に沿えなかったらごめんね」

「なに、心配するな。
ミストルテインは確かに滅びたが、王城にはまだ多くの資料が遺されているはず。
亡き父上と母上の事を知れば、カルセも何かを見つける事ができるかもしれない」

「ありがとう、ジスト。ちょっと不安だけど、興味もある、・・・かな」

その前に、とジストは身を乗り出す。

「王都の前に寄りたいところがあるのだ。いいだろうか?」

「まぁ、舵取りは姫さんやし、好きにしたらえぇんちゃう」

ふふ、とジストは笑う。

「カルセ。君に会って欲しい乙女がいるのだよ」

「乙女・・・? 女の子ってこと?」

「あぁ、そうだ。
もし君がアクイラの血を継ぐ真の王子であるならば、外せない存在だぞ」

「・・・おいジスト、まさか」

「そうだ。私の許婚の事だよ。
ほら、外せない存在だろう?」

素敵、と思わず色めき立ったのはサフィだ。

「ははっ! サフィはこういうの大好きだもんねぇ」

「あ、アンバーさん、それは言わない約束ですよぅ・・・」

恥ずかしそうに俯くサフィに、カルセは不思議そうに首を傾げた。






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