ハイネをオアシスに送り届ける。
住人が一斉にハイネの無事を喜び、足が悪い長老のビャクダンでさえ車椅子を放り出してハイネを抱きしめる有様だ。

「悪いけど、また頼むわ。
しばらく空けるさかい」

「この期に及んでまーだほっつき歩く気か!
まったく、最近の若者はロクに子育てもせんと・・・」

ブツブツと小言を垂れ流すビャクダンだが、皺が浮かぶ骨ばった手は、しきりにハイネの頭を愛でるように撫でている。
妻のマシューはニコニコと笑った。

「この人もこんなんですけど、ちゃあんとハイネちゃんを可愛がりますさかい。
メノウはん、くれぐれも気を付けてくんなはれ」

「あぁ、行ってくる。
またな、ハイネ」

「いってらっしゃい!!
ヒメサマたちも気ィつけてなー!!」

小さな両手をいっぱいに振り、ジスト達を見送った。





「しかし暑いな、この地方は。
アルマツィアの雪を被ってくればよかっただろうか・・・」

「こんな炎天下では雪など意味がないだろう。
よくもまぁこんな場所で生きられるな、住人共は・・・」

焼けるような暑さで、気を紛らわせる会話も絶え絶えである。
まだ日が昇りきっていない時間帯だというのに、すでに日中の暑さを想像するだけで倒れそうなほどだ。

見渡す限りの黄金色の砂漠を歩いていくと、見覚えのある王都ブランディアの影が見えてきた。
暑さのあまり蜃気楼のように歪んでいるが、幻ではなさそうだ。

「暑いね・・・。倒れそう」

「カルセさんはブランディアは初めてでしたね。
あ、あの、あまり具合が悪いようでしたら私が介抱しますので・・・」

「倒れるなら王都についてからにしろ。さもなくば置いていくぞ・・・」

どうにもコーネルはこの気候に慣れないらしい。
気怠そうに足を運ぶ彼には苦笑いだ。

「ところでさ、ブランディアって今物騒らしいじゃん?
王都とか、どうなってんだろ。
俺達、いきなり戦場に突入!・・・なんてボケかまさないよね?」

「さすがに王都のド真ん中でゴタゴタはしてへんと思うが・・・」

言いかけて、遠巻きに煙が立ち上る王都の姿を確認してしまった。

「忘れてたわ。ヴィオルの周りはアホばっかや、ってな・・・」

火薬の匂いが砂漠の風に紛れて漂ってきた。





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