ひんやりとした冬の風が頬を撫でる。
心地良い。このままこうして眠っていたい・・・――

「姫さん」

懐かしい声がする。
重たい瞼をゆっくり開けると、いつも通りの“彼”がいた。

「メノウ・・・――」

「気付いたか。よかった」

ガバッ、と起き上がる。
そこは宿屋だった。
開け放たれた窓から静かに風が吹きこんでくる。

「皆は・・・」

「安心せえ。全員無事や。
クレイズがちぃとばかししんどそうやけどな」

「メノウ、メノウ・・・――」

思わず彼を抱きしめる。

「・・・ぶっ殺してもえぇねんで。
ハイネが見てないとこで頼みたいが」

「馬鹿か君は!!
そんな事、するわけが、ないだろう・・・!」

意外、とばかりに朱色の瞳が丸くなる。

「・・・どうやら私は、自惚れていただけらしい。
君の心を知らなかったどころか、自分自身の存在さえわかっていなかったなんて」

「自分自身?」

「私は、王子ではなかった。
父上も、私の父ではなかった。
・・・――私は、私ではなかったのだ。
これが笑わずにいられるか」

覇気のない笑いがこぼれる。

「なぁ、姫さん」

「君はまだ、そう呼んでくれるのだな」

「せやなぁ。ワイにとっちゃ、別に姫さんが姫さんでなかろうがなんだろうが、関係あらへんし」

大きな手が、ジストの頬に触れる。
初めて自ら触れた、あの手だ。

「ワイはお前自身に忠誠を誓う。もう二度と苦しめへん。今まですまなかった。
・・・ワイの命、お前に預けたるわ。
なぁ、――“ジスト”」

「君っ・・・!
今、私の名を呼んで・・・――」

「さて、と。馬車馬の如く働くとするか。
買い出し行ってくるわ。あと、お前に会いたがってた奴、拾ったで」

ベッドの脇から立ち上がったメノウが去ると、向こうにいた懐かしい者達が笑顔で手を振った。

「ジストさん!
ご無事でよかったです!!」

「ね、だから言ったでしょ!
ジストはサクッとやられちゃうような器じゃないってさ!!
って事で、俺達また一緒に行くから~!!
あ、この子お土産。ガーネットちゃん♪」

「しくじって悪かったな、プリンセス!
アタシはイケメンに助けられてピンピンさ!」

「サフィ・・・アンバー・・・!
ガーネットも無事で・・・」

「もう・・・僕にも感謝してよね・・・。
慣れない転移術で魔力スッカラカンなんだから・・・」

ベッドに横たわるクレイズがぼそぼそ呟いている。

「もー、博士のバカ!!バカバカ!!
死んじゃうかと思った・・・」

「カイヤ君がお嫁に行くまで死ねないよ。なーんてね」

「バカ!!」



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