いつも通り薄暗く不穏な曇り空の下。
情けない喚き声が施設に響く。

「私はハメられたんだ!!何も間違っちゃいない!!
あの聖都の狡賢い男のせいで!!」

満身創痍のリビアンは床に拳を叩きつけて叫ぶ。
その様子を、椅子に座って足を組み、冷たく見下す青年。

「言い換えれば、貴方は他人に嵌められるほど間抜けで無力な存在だったとも言えます」

「違う!!わ、私は・・・!!」

「無様な姿ですねぇ、リビアン・クヴェル・ヴィクトール。
これが策士と名高いヴィクトール公爵家の末裔ですか」

リビアンの顔色が変わる。

「わ・・・私の名を・・・嗤う、か・・・
侮辱・・・するのか・・・っ?!」

それでも目の前の冷徹な男は眉一つ動かさない。

「貴方は大層ご自分の血筋を誇っているようですが・・・
当の貴方は、屋敷の金で豪遊した挙句にその愚行をただ1人の使用人のせいだと押し付けた愚図だと聞きました」

「ち、ちがっ、それは・・・!!」

「違うそうですよ、レジェ。どうなのですか」

気配なく本棚の陰に佇んでいた人影が動き、リビアンは腰を抜かす。

「ま、待て、レジェ!!
私とお前の仲だろう?もう過去の事は水に流し・・・」

黒い外套を頭からすっぽりと被る華奢な人物。
青年は椅子から立ち上がり、もはやリビアンに目もくれずに去ろうとする。

「さぁ、もういいですよ、レジェ。
好きになさい。彼はもう――“いらない”、との事ですから」

「待ちたまえ!!待ってくれ!!
く、クライン!!クライン様!!助け――」

断末魔と鈍い音を背に受けながらクラインは立ち去った。

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