聖都アルマツィアの奥、城下町より更に高い崖の上にある宮殿。
そこは白の国を治め、世界5ヶ国の頂点に立つ教皇の拠点である。
宮殿の周辺はもはや絶壁といえ、内部に至るためには唯一の正門を通る必要がある。
もちろん正門の前には厳重な警備体制がしかれ、宮殿に仕える騎士の中でもトップクラスの者達が門番を務める。
その警備を破って侵入した暗殺者がいるという。
教皇や皇子達を狙った暗殺者は、実は過去に何人かいたが、すべて処刑という形で抹消されてきた。
そんな中で此度の犯人を捕らえ損ね逃がしてしまった事はある種の屈辱ともいえる。
これは皇族、国に塗られた泥だ。宮殿側としてはなんとしてでもその汚点を拭わなければいけない。
「見つからないのならば、誰かを仕立てあげて殺してしまえばよいのですよ、殿下」
羽帽子をかぶり奇妙なマスクで目元を隠し貴族然とした身なりの男は甘い毒を囁く。
傍らで聞いていた“殿下”と呼ばれる若い青年は無表情でどこか空を見つめている。
「ちょうどよい“材料”がこの国を訪れているようですよ。
素晴らしいプレゼント付きだ」
「どういう意味です」
「“聖女”です」
無表情を貫いていた青年の眉が動く。
「ほう・・・?
それは信じてもよいのですか」
「私めは殿下に嘘など吐きませんよ。フフフ」
「いいでしょう。
貴方のその胡散臭い戯れも多少の気晴らしにはなりますからね」
「では早速人員の手配を・・・」
「父上や弟達の動向にはくれぐれも注意するのですよ」
「御意」
羽帽子の男はクククと笑いながら静かに部屋を出ていく。
扉が閉まった直後、見送っていた青年は微笑んだ。
「哀れな没落者・・・
私がそんな道化に踊らされるとでも?」
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