「で、出た、アイツだ、アイツが犯人だ!!」

屋根の上の人影を見上げた兵士は仲間を呼ぼうとする。
そんな兵士に向かって魔法の刃が飛んだ。鎌鼬のようにうねり、モヤのような幻影の刃は悲鳴を上げる兵士へ無慈悲に飛び、切り刻む。

「煩い蝿共・・・」

不気味なほどに澄んだグレーの瞳が、肉塊として散らばる兵士を見下す。

「俺は知っている。この国の、この世界の行く末を。
・・・俺は正しい。あとは、宮殿に巣食う菌を潰すだけ・・・」

その呟きは誰も聞いていない。
ひんやりと澄み渡った冷たい空気の中、その青年の声は静かに広がる。

「俺はあいつを救うためなら鬼になる。なれる。
すべてはあいつのためだから」


・・・――ジスト。


声にならない声、彼の唇がその名を呼ぶ。

なんの痕跡もない現場と、その場に広がる血だまりや肉片を他の兵が見つけたのは、それから間もなくの事だった。

-85-


≪Back


[Top]




Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved