その少年は、とても素晴らしい両親のもとに生まれた。

世界一の錬金術士の父と母。
天才的な両親の血を継ぐ少年は、常に周りから期待の視線を浴びて育った。
少年もまた生まれ持っての天才だった。
期待にはそれ以上で応えてきた。

だが皆はこう言う。

「流石、あの両親を持つ子だ」と。



(ボクは、いつだってがんばってきた。
父さんや母さんに負けないように。
なのに、ボクのがんばりは全て父さんと母さんのものなの?)

少年は納得がいかなかった。
それでも努力は辞めなかった。
いつか自分自身を認めてくれる人が現れると信じていたから。


しかし、一人の少年が青年になるまでの時間を経ても、誰も“彼”を認めなかった。

彼の人生にはいつまでも両親の栄光が付きまとう。
それがとても憎い。憎くて憎くて憎くて。

「だったら、“俺”自身が――あの二人を否定してやる」


若き青年の双眸は、まるで燻る雷のようにギラギラと光っていた。



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