翌日はよく晴れた空となった。
カイヤが金の力で動かした船に乗り込み、普段の航路を逸れて中央海域の中心へと向かう。



ゲートがある小島は、濃い魔力の空気に覆われている。
前の世界では魔力帯をも歩ける馬がいたために奥地へ至れたものだが、今回はどうしたものか。

「そういう時のボクじゃんね!
ホムンクルスなら魔力帯なんかなーんにも怖くないよ!」

「……頼って大丈夫なのか?」

「奥行けばいいんでしょ?
ヨユーヨユー!
皆はぐれないようにね~! ピピーッこっちでぇーす」

シエテの自信満々な足取りは、無事にハイネ達を奥まで誘導した。



ハイネにとっては二度目だが、他の仲間達には初見だ。
目の前に広がる奈落に絶句していた。

「は、ハイネ、本当にコレに飛び込むというのかね?!
だだだ大丈夫なのか?!」

「まぁ二回目だし。そりゃあドキドキはするけどさ!
ちょっと豪快な落とし穴なだけだよ」

「まったくもって安心できないんですけどホントに大丈夫なんですよねコレ?!
私も初めて見たんですけども!!」

「うちのとこのカイヤ先生も飛び込んだ事あるらしいから大丈夫だよ」

「度胸ありすぎでしょうそっちの私!!」

ハイネは若干の緊張を紛らわそうと軽く屈伸をした後に、くるりと仲間の方を向いて拳を握る。

「皆、送ってくれてありがと!
サヨナラは言わないよ!」

「イッテラッシャーイなのデス!
ほら、お兄も!」

イザナに小突かれたヒューランは一瞬迷ったような表情を浮かべたが、すぐに微笑みに切り替えた。

「……気をつけてな。世話になった」

「うん! ありがと!」

ハイネは何の気なしにヒューランの手を握り、固く握手を交わす。
その小さな手が離れる間際、つい彼はもう一度握ってしまった。

「ヒューラン?」

「……いや、悪い。つい」

どういう意味での「つい」なのかはわからなかったが、ハイネはニッコリと笑ってそっと離れていく。

「それじゃ、アイレスくんに繋げて……と」

手に持つ懐中時計から青年の声がする。

『こちらの受け入れ準備は整っています。いつでもどうぞ』

「おっけー!
それじゃあ――行ってきます!!」

「「行ってらっしゃい!」」

ハイネは思い切って駆け出す。


(今度はちゃんと一人で行ける、大丈夫)


宙に浮いたハイネの体が光に包まれる。
ヒューランの心を掴んだその笑顔が振り向き、キラキラと消えていく。

(ハイネ……、できたら、またいつか……――)



(あぁ、やっぱり、その手を離したくなかった)

(……なんて思ってしまった俺は、やっぱり馬鹿のままかもしれない)






【第二部『碧落のセカイ編』END】

第三部へ続く...



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