カチ、カチ、カチ、と小刻みに押す音が暗がりに響く。
「……これもダメか……。ここも不通……」
大量の数字が羅列された紙。
最後の一行に横線を雑に引き、その青年は深く溜息を吐いた。
(どこもかしこもハズレ、ハズレ。原初の世界ばっかり)
すっかり冷めてしまったコーヒーを気まぐれに一口流し込み、彼は腕を組んで天井を仰ぐ。
ここしばらく眠っていない。そろそろ休みたい気持ちが強まってきた。
やれやれ、とゆっくり席を立ったところで、机の上の機械が小さな信号を捉えた。
『……か……聞こ……』
背を向けていた青年は一瞬凍り付き、そして一瞬で振り返り再び席に着く。
慎重に機械のダイヤルを回すと、雑音の向こうから聞こえる少女の声をくっきりと拾う。
『聞こえますかー? もしもーし?』
「なっ……?!」
青年が思わず漏らした声が向こうにも届いたのか、少女は手を叩いて喜んだ。
『ほんまや、繋がった!
こんにちは! うちはハイネ!
そちらはアイレスさん?』
パクパクと声にならない声を思わず出してしまったところで、青年はわざとらしく咳払いをして応える。
「はい。俺が『アイレス・フィンスターニス』です。
……その座標はひょっとして、クライン・レーゲンから渡されたものですか?」
『そうだよ! それで、物は相談なんやけど。
……うちをそっちに呼んでくれへん?』
青年は咄嗟に、慌てて立ち上がった。
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