ハイネ達は白の国にやってきた。
ダインスレフに最も近い街、クルト。
身も心もすり減らしてしまったカイヤを休ませようと、宿屋の扉を叩く。



「……声……そうだ、声が聞こえたんです……。
父の声が……。
そんなはずがないのに」

毛布を羽織るカイヤが疲れ切ったようにそう呟く。
視線の先にはハイネの懐中時計。

「うちにも、聞こえた……。クレイズ先生の声」

「俺はまったく」

「私も全然だな」

「ボクも知らなーい」

「ミーも、ですねぇ」

真偽はどうあれ、そのおかげでカイヤは理性を取り戻したのだ。責める理由もない。
懐中時計を尋問したところで仕方ないのだが。

「あの……ハイネさんと、お仲間の皆さん……。
本当に、本当にありがとうございました。
もし助けてもらわなかったら、私、今頃……」

「アンリ先生だよ。アンリ先生が心配しとったの。
だから、学校戻ったらアンリ先生にお礼言わんとあかんで」

「そっか……。そうですね、ふふ。
それにしても、軽率でした。衝動のまま飛び出して返り討ちになるなんて。
私の悪い癖で」

――やっぱり『癖』なのか。

脳裏に過る自分の恩師の言葉を反芻しつつ苦笑いである。



それで、とヒューランが本題に触れる。

「ハイネ、お前が受け取った座標というやつは……
つまりあのレムリアがいた世界、って事か?」

「たぶんね。確かに座標があればそこを目指せるけど……
でも『観測器』がないし」

世界の座標は『世界線観測器』で利用するものだ。
この世界では存在しない。
今からカイヤが発明するにしても、あと何年かかるか不明だ。

唸ってしまったところで、カイヤが紙切れを手に取り、ふと思いつく。

「ハイネさん、その懐中時計にはハイネさんの世界の座標が埋め込まれていましたよね。
確か、アナタの世界の私と通話するために」

「うん。でもこの懐中時計には通信の機能しかないから、座標に向かって飛ぶっていうのは……」

「その座標を懐中時計に埋め込めば、そこと連絡が取れるのでは?」

ハッとする。
更にカイヤは続ける。

「あのレムリアさんは既にこの世界に“渡ってきた”人。つまり、この座標が示す世界には肉体を移動させられるくらいの観測器があるのでは?
向こうから“呼んでもらう”という方法が取れるのかも」

「ハイネ!
もしやそこに書かれた『アイレス』という人物、その観測器に関係のある人物なのではあるまいか?!」

アメリの指摘で、ハイネはようやくクラインが託した言葉の意味を見つけた。

「……そうと決まれば、このアイレスって人に連絡しなきゃ!!」

「懐中時計の改造なら任せてください。
座標を入れるだけなのですぐ済むと思います」

「わぁー!! おおきに!! 助かるわぁ」

「いえいえ。アナタに救われた身です。これくらいどうって事ないですよ」

「でもまずは体調回復してからな!」

ハイネに強制的に毛布でぐるぐる巻きにされ、カイヤは成す術もなくベッドに寝かされたのだった。




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