ヒスイによって邪なる者の進行を食い止められたため、カレイドヴルフ王都の被害は微々たるものだった。
怪我を負った両国王も、傷だらけではあるが命に別状はないようだ。
兵士の手を借りて立ち上がったコーネルとジストは、双剣を握ったままかつての仲間を見つめている娘の肩に触れる。

「アメリ。お前のおかげで俺達は助かった。
まさかお前に救われるとはな……」

「私とて受け入れられるのに時間がかかった宝剣だというのに……。
随分と選り好みする剣だな?」

「剣が、選ぶ……?」

不思議そうに見上げてくる娘に、うむ、と頷くジスト。

「宝剣ミストルテインは、持ち主に合わせた力を発揮する剣だ。
私が初めてそれを手にした時など、風のように軽くてな。
包丁の方が強いのではないかと疑ったくらいだ」

「俺の宝剣は鞘から引き抜く者を自らが選ぶ。
剣に認められないと、刃すら拝めないんだ。
なのにお前ときたら……。
本来はもう少しこう、厳粛な場で柄を握る剣なんだぞ」

「す、すみません……。
父上と母上が危ないと思ったら、体が勝手に。
剣はお返しします。
私にはまだ……早いですから」

そうか、と二人は娘から剣を受け取る。
そしてまた背を向ける。

「……行ってやれ。
お前にとっても、少なからず影響のあった男なんだろう?」

「そう……かも、しれません。
では父上、母上も。また後程」

アメリは膝をついているヒューランの元へ小走りで向かう。

「さて。次は西の問題だが。
コーネル、私の軍と合わせて赤の国を迎え撃つことはできそうか?」

「幸い欠員はいないが、多少なり消耗が多くてな……。
どうしたものか」

「ヘイヘイ、アンタらがダブルキングかい?」

聞き慣れない低い女声に声を掛けられ、コーネルとジストは振り向いた。
碧の兵が二人の女を主の元まで連れてきたようだ。

「この者達、アルマツィアからの使者のようです。
この銀髪の者の素性は怪しいですが、そちらの金髪のお嬢さんはあの『癒し手』たる聖女だそうで」

「ファック!!
だからアタシはベティの伯母だって言ってんだろ!!
つまり!! アタシも聖女!!」

「まぁまぁ、伯母さま。
お初にお目にかかります、ベルベティ・エレクトと申しますの。
こちらはベティの伯母さま、ガーネット・ルーチェ。
ルベラ様からの命で、碧の軍の治療に参りましたのです」

「おっと、アタシはベティの護衛だ。
治療の期待はノーセンキューだぜ」

「ルベラ殿から我が国に?」

「はい。なんでも、赤の国のヒューラン殿下の使者から、碧軍の援護をするよう歎願があったとかで。
あのルベラ様が他国を助けるなんて、明日のアルマツィアは氷柱が降るかもしれないですね、えへへ」

思わずコーネルとジストは後ろに目をやる。

「それで、どちらから治療を始めれば?」

「そ、そうだな。ではお言葉に甘えさせてもらおうか。
怪我人を集めるぞ!
……と、まずはこいつから頼んでもいいか?」

「俺は別に、何ともない」

「あぁ~、これは腕の骨が粉々ですねぇ……
ちょっとチクッとしますが、王様なら我慢できますよね?」

「……丁寧に頼むぞ」



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