邪なる者は口元に炎を湛えてヒューラン達を見つめている。
イザナの歌が効いているのか動きは鈍い。
「……兄貴」
ヒスイは剣を手に見上げる。
「おーい、みんなー!!
避難終わったで!!」
ハイネの声に振り返った向こう、邪なる者は咆哮を上げて飛びかかってきた。
「ぎゃあ!!
な、なんなのだ急に!!
今までおとなしかったというのに!!」
「お、おとなしかった?!」
「あの邪なる者、ずっと広場を見つめていたのだ。
それこそ、まるで……」
――全員がカレイドヴルフへ避難するのを待っていたように。
「アハハ、変なの!
あいつらにそんなリセイってやつがあるわけないのにね!!」
「お前にだきゃあ言われたかねぇだろうよ!!
来るぞ、気をつけろ!!」
「ヒスイ兄ちゃん、いいの?!」
「……構わない!!
あいつはもう――今までの兄貴とは違う……!」
邪なる者が放つ深紅の業火が王都を焼き払う。
長い尾で民家を薙ぎ倒し、鋭い爪で街路樹を粉砕していく。
「あぁ、クソ!
あんなんワイらのナマクラで倒せるわきゃーねぇ!!」
「おいヒスイ!
これ以上俺の意志を揺らがせるな!!
宝剣を抜きたくなる!!」
「――はぁっ!! ゲホッゲホッ!!
お兄、ミーはもう限界デスぅ……!!
喉が、熱くて……」
イザナの歌が止むと、邪なる者は体を真っ赤に光らせて全身から火の粉を放つ。
それに触れた肌が焦げ付いた。
「みんな、足止めは十分!
撤退しよ!!」
王都を這う炎の渦の中、ハイネ達は馬を駆ってカレイドヴルフへと向かう。
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