ヒスイは、俺にとっては兄のような男だ。
物心ついた時から、あいつは俺の傍にいた。
たぶん、父上や母上とよりも、一緒に過ごした時間は長いと思う。
お調子者で、よく俺を笑わせてくれた。
剣の腕前も父に引けを取らないほどで、他の兵に剣技を仕込んでいる姿は、俺の憧れそのものだった。
俺に戦う術を教えたのも、束の間の年相応な思い出をくれたのも、全部ヒスイだ。
両親を殺されて深く落ち込んだ時も、あいつは俺を奮い立たせてくれた。
「ヒューラン、王になれ」
そう力強く背を押してくれた。
あの時の大きな手に、俺はどれくらい救われただろうか。
だから、戦うと決めた。
昔みたいに、子供達が無邪気に笑っていられる幸せな国。
俺は、そんなブランディアを作りたい。
夜明けの光に照らされて流れゆく雲を見つめながら、ヒューランはハイネにそう語って聞かせた。
肌身離さず持ち歩く宝剣を眺め、彼はため息を吐く。
「もしもそれがすべて虚構だったとしても。
……確かに、俺を突き動かす力になってくれたのはヒスイだ。
そして、俺はあいつの言いなりとしてお飾りの旗印になっているつもりはない。
俺は俺の意志で、戦っている。
だからハイネ、俺のことは心配しなくていい」
最も近い間柄ながら、ヒスイも知らないヒューランの本音。
ハイネは、心配していた自分が恥ずかしくなった。
「ごめん……。
うち、勝手に思い込んで、ヒューランは利用されてるって……」
「無理もないさ。胸を張れるほど、俺はまだ強くない。
正直に言えば、今こうしてお前にこの気持ちを言葉にしたことで、やっと自信が持てた気がする。
むしろお前に感謝しないとな」
ふ、と彼は笑う。
「ハイネ。これは俺の勝手な意見だが。
……世界のことを一人で背負わなくていい。
お前は確かに他の歴史を見られるという特別な存在かもしれないが……
歴史というものは、数多の希望と絶望から生み出される結果に過ぎない。
たった一人ですべてを救おうとしなくていいんだ」
――彼のその言葉は、どんな励ましよりも優しく包んでくれる。
「お前には他人を惹き付ける何かがある。
前の世界の連中も、お前を恨んだりはしていないだろう。
そしてこの世界の俺達も、もし悲惨な結末になったとしても、お前を恨んだりしない。
だから、遠慮なく頼れ。巻き込め。
少なくとも俺は、喜んで協力するさ」
つん、と喉の奥が熱くなった。
「……嫌やなぁ。逆に諭されてもうたわ。ズルい」
「わ、悪い。エラそうに言ってしまって……。忘れてくれ……」
「ううん。おおきに。
――んじゃ、一緒にがんばろ、ヒューラン!」
差し出された小さな手。
彼はその手をそっと握ったが、少し早くなった鼓動が伝わらないか気が気ではなかった。
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