ガタゴトと揺られながら、東へ伸びる大通りを行く。
さすがに王家の馬車ともあって、前の世界で仲間達とミッチリ詰め込まれた馬車とは乗り心地が違う。
フカフカと弾力のあるイスが体を包み込んでくれるようだ。
「――と、いうわけで、我々は母上に赤の国穏健派の現状を伝えるべく馳せ参じるという流れだ」
コーネルからの支援が望めない今、頼りになるのはジストだけ。
「まったく、甘いんですよ皆さん。
父上が良しとしないのですから、母上だって同じに決まってます。
ムダ足ですよ」
「口が悪いぞ、グラン?
まだわからないではないか。同じ国の王だからといって、必ずしも同じ意見とは限らないだろう?」
「僕には関係ありませんね」
ツン、とそっぽを向く少年に、ハイネは目をやる。
「グランくんは何しに行くの?」
「ふっ、不敬な!! なんですかその馴れ馴れしい呼び方は!!
僕は魔法の修行に行くのです。偉大なレムリア先生のもとへ。
姉上のように遊びまわっているわけではないのですよ!!」
「ふむ、ちょうどいいな!
グランよ。このハイネという私の友人だが、レムリアに会いたいらしい。
顔をきかせてやるといい」
「はぁ〜?! なんで僕が?!」
「お前の方が真面目にレムリアの講義を受けているのだ。私が説得するより首を縦に振らせやすいだろうさ」
「だから僕には関係ないですってば!!」
賑やかな姉弟喧嘩に、くっくっく、とヒスイは笑いを噛み殺している。
「な、なにがおかしいのですか!!」
「いやなに、元気でえぇなぁってのお。
昔の殿下と姫を見とるみたいや」
「姫? ヒューランの妹姫のことか?」
「あぁ。イザナ姫や。今頃どーしとるんかねぇ」
ヒューランの妹であるイザナは、白の国へと亡命したという。
母ティルバによく似た美しい王女であり、その命が救われるのならと教皇ルベラのもとへと向かったはず。
教皇の仮面の裏で多数の妾を抱えていると噂されるルベラだが、イザナはその寵愛を手に入れられたのだろうか。
遠き地の妹を思ってか、ヒューランは馬車の外を見つめている。
気まずい沈黙が流れ、ヒスイはわざとらしく咳払いをした。
「んで、ハイネ、お前そのレムリアとかいうやつのとこに何しに行くんや?」
「“オトナ”の話を聞きに行くんよ。うちは今探偵やからな」
「いい年してゴッコ遊びですか?
そんなものにレムリア先生を付き合わせないでくださいよ」
あからさまに不機嫌そうなグランをそっちのけで、ハイネはトキからもらった袋を開ける。
「うちお腹すいたからごはん食べるー。
皆も食べる?
トキちゃんお手製やで!」
「お! 握り飯か!
ワイも腹減ったわ〜。お慈悲をっ!!」
「はいはい。大げさやなあ。
ヒューランにもあげるね。アメリとグランくんも食べる?」
「私は食べるぞ!!」
「こ、こら姉上!!
見ず知らずの者の粗末な食事なんか、何が混ざっているか……!!」
「ではグランの分も私がいただこう!!」
「ああっ、もう!!」
なんだかんだでグランもそれを受け取り、渋々口に運んでから、干した梅の酸味に口をすぼめる。
すべて中身が違うようだ。全員に2つずつ配ってもまだ余る。
どれだけ大食いだと思われているのか若干不安になったが、少しいびつな思いやりを、ハイネは美味しそうに頬張るのだった。
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