翌朝、朝食を平らげるや否や、ハイネは学校へと足を運ぶ。
ちょうど登校の時間だ。学生達が賑やかに校門をくぐっては教室へと吸い込まれていく。
カイヤの研究室の扉を叩くと、眠たげな声が「どうぞ」と返ってきた。
ハイネが中へ入ったと同時に、奥の机に向かっていたカイヤがくるりと椅子ごと振り返り、やれやれと立ち上がる。
「なんとも気難しい子でしたよ。“誰かさん”にそっくりでした。はい、これ」
彼女は懐中時計を差し出す。
蓋を開けてみると、カチカチと秒針が正確に時を刻んでいた。
壊れていたのは通信機能の方だが、果たして直っているのだろうか。
「カイヤ先生、この時計の仕組みって……」
「中を開けて見させてもらいましたよ。本当、ビックリしました。
だってその時計、盤の裏に“魔力回路”がつけられているんですもん。
『生きている』と表現したくなるような代物です」
どうやら、世界を渡って落下した時の衝撃で魔力回路の一部が剥がれてしまっていたらしい。
そのせいで、大量の魔力を使う通信機能がうまく動かなかったようだ。
今後のためにも、時計を守る受け身の方法を考えなければいけないかもしれない、とハイネはぼんやり考える。
「うち、この時計のことよくわかってなくて。
クレイズ先生、まさか自分の魔力回路を使って改造していただなんて、あの時は一言も」
「どの世界でもあの人は“不器用”なんでしょう。
……ハイネさんは、魔力回路についてはどこまでご存じなのですか?」
「えーと……魔法を使うときに働く器官だってことくらい……。
うちの世界では、まだよくわかってない器官だって、先生達はよく言ってました」
「なるほど。それじゃあ、“この世界”もあながち遅れているわけでもなさそうですね。
我々が知る知識がハイネさんの世界と同じものかはわかりませんが、参考までにお教えしましょう」
魔力回路――それは、現代の誰しもが必ず持つ、人々の心にいちばん近い器官。
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