ヒスイに送り届けられ、アンリの家の玄関に手を伸ばす。
どうやらハイネの帰りを待っていたのか、鍵は開いたままだった。

「す、すみません、遅くなっちゃって」

「あぁ、お帰りなさい。パーティーは楽しめましたか?」

リビングで本を読んでいたアンリが、イタズラっぽく笑って問いかけてきた。
すっかり木偶の坊を貫いていた様を見透かされて、ハイネは拗ねたように口を尖らせる。

「お似合いじゃないですか、そのドレス」

「でも動きづらくて……。足も疲れたし」

ソファに腰を下ろし、ようやくピンヒールから解放される。
慣れない靴に悲鳴を上げた足。至る所が擦り傷だらけだ。

「そうだ。昨夜アンリ先生に貸してもらった本、あれ全部読んだよ。
でも今日王様達から直接聞いてきた生々しい話の方が役に立ったかな」

「それならば、あながち無駄な時間でもなかったようですね、宴とやらも」

ハイネはソファに深々と背中を預け、足を伸ばす。
アンリとの間に置かれたローテーブルには、彼が読み終えた数冊の本が積み上げられていた。
他の部屋はしんと静まり返っている。
――どうやら、アンリだけはハイネの帰りを長らく待っていてくれたようだ。

「何か食べますか? 温かいお茶でも?」

「大丈夫。もうあの空気だけでお腹いっぱいやて。
アンリ先生だって疲れてるやろ?
うちのことは気にしなくていいよ」

「そうですか。それじゃ、僕も寝るとしますかねぇ。
……あぁそうだ」

立ち上がった彼は思い出したように手を打つ。

「カイヤさんがね、明日ハイネさんと会いたいそうで。
時計の修理がそれなりに終わったようですよ」

「わぁ、ほんま?!
さっすがカイヤ先生やわ~!!
じゃあ明日は学校行く日にする!!」

見違えたように元気を取り戻したハイネもまた立ち上がる。
そうしてから、靴擦れの痛みに顔をしかめた。

「……ねぇ、アンリ先生。適当な薬草とかある?
塗り薬、作りたいかも……」

「すぐに傷薬を手配できるのは錬金術士の特権ですね」

ふふ、と笑いながらアンリは棚から乾燥した薬草の束を取り出した。




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