機関の施設内が戦々恐々としている。
エントランスに職員が集まり、不安を吐露するざわめきが場を漂う。
その視線の先、ガラス1枚隔てた向こうに構えているのは、武装した異国の集団だ。

「警告する。この施設の責任者は扉を開けて出てこい!
我々の問いに嘘偽りなく答えれば、命を奪うまではしない」

外からの呼びかけを聞いた職員達は、騒動を後ろから見つめているレムリアに耳打ちする。

「クルーク先生、絶対行っちゃダメですよ。
あんなの出まかせに決まってます」

「そうですよ!
本当に奴らの言う通りなら、武装解除してみせるのが礼儀ってもんですって」

「そもそもおかしいじゃないですか。機関は中立の施設です。なのに白の国の軍隊が押し寄せてくるなんて」

不信感を次々と口にする部下達を宥め、レムリアは一歩二歩と歩み出た。

「所長!」

「大丈夫ですよ。
……作法のなってない来客に少々苦言を呈するだけですから」

足元にくっつくフェナが不安そうに見上げてくる。

「パパ」

「フェナはここで待っていなさい。大丈夫、いざとなったら返り討ちにするから」

彼は扉を開け、1人で武装集団の目の前に立つ。



「私がこの機関の責任者、所長のレムリア・クルークです。用向きを伺いましょう」

兵の1人が問う。

「先日、『赤い髪の娘』がここを訪ねたはずだ。『聖女』を連れて」

「存じませんね」

「緑の国の王子2人と、オリゾンテの生き残りのガキ共も共に来たはず。
答えろ! どこへ行った?!」

「存じません」

シュン、と飛んできた1本の矢が、レムリアの足元の地面を抉る。

「言ったはずだ。嘘偽りなく答えればと。
あのガキ共は此度の戦に『関わった』疑いがある。
我が国の兵を十数、戦闘不能状態とした。国家機密である『聖女』を連れ去った。
もはや一般人として見逃すわけにはいかない。
緑の国の王族までもが関わったとなると、これは白の国に対する冒涜。緑の国を粛清する必要があると教皇陛下はお考えだ。
……その上で、再度問うぞ。これが最後のチャンスだ。
ガキ共はどこへ行った?」

地面に突き刺さる矢を引っこ抜き、レムリアはそれを眺め、呟く。

「白の国ともあろう皆々様が、なんとも“時代錯誤”な武器をお使いのようで」

「なんだと?」

「あぁ、まったく、この世界は“遅れている”。
こんな世界を支配して美酒を呷りたいのですかね? そちらの君主は」

「なっ……き、貴様、教皇陛下を侮辱するのか?!
命知らずめ!」

「私の答えを真としない、駄々っ子のような“捨て駒”達。
上がそうなら、仕える連中もたかが知れているというものです」

相変わらず柔和に微笑んでいるレムリアの姿に、ついに隊の怒りは頂点に達した。

「見せしめだ! 処刑してやる!!
貴様の言う通り、“たかが知れた”貴様の部下共も全員抹殺だ!!」

「ははっ。それは困りますね。機関の崩壊は世界の発展を妨げる事でしょう。
原始のような獣の世界をそちらの君主がお望みなら、話は別ですが。
……さて、“大掃除”をしましょうか」

次第に風が強まる。
それが自然の流れではなく、レムリアの詠唱によるものだと気付くのは、彼に向けられた無数の矢が全て跳ね返されて降り注いだ時だった。




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