ぺたぺたと廊下を歩く小さな足音。
癖の強い薄青の長い髪をボサボサのまま流し、その華奢な背丈には合わないブカブカの白衣を着た少女。
これまた小顔に不釣り合いな大きい眼鏡をかけ、資料の束を抱えた彼女は、とある扉のドアノブに手を伸ばす。

「パパ、お願いされてたやつ持ってきた」

「ありがとう、助かるよ」

少女と同じ色と質の長髪を後ろで束ねた青年が立ち上がる。
資料を受け取るついでに、少女の肩からずり落ちた白衣を直し、ぽんぽん、と頭を撫でる。



父と娘の他愛無い時間を過ごしていると、扉がノックされた。

「クルーク先生。お客様がお見えなのですが」

「僕に? 珍しいな」

「『フェナ』が見てこよっか?」

「そうだね。用向きを伺ってきてもらえるかな。変な人じゃなければ通してくれるかい」

「ん。わかった」

少女――『フェナ』は、ぺたぺたと小走りで部屋を出て行く。





「う~、緊張するなあ。どんな人やろ」

クレイズからの手紙を両手で握りつつ、ハイネはそわそわと落ち着かない風に待ち人の訪れを窺う。



ダインスレフ国立医療機関。
世界有数の科学者が集うこの場所に、ハイネ達はやってきたのだった。
見るからに未成年が多い集団に「社会科見学か」と誤解した受付係が声を掛けてきたが、クレイズの署名が入った手紙を見せると慌てて連絡をとってくれた。

しばらく待っていると、トコトコと華奢な少女がこちらへと近づいてきた。
それに気が付いたハイネが振り返り、――仰天した。

「うへぇっ?! 『フェナちゃん』?!」

声を掛けようとしたら先を越され、『フェナ』は大きな瞳をパチパチ瞬いて固まる。

「フェナの知り合い? パパじゃなくて?」

「ぱ、パパ?!
えぇと、うちはレムリアさんに会いに来て……」

「パパの名前。ヘンな人。フェナは知らない。あなた、だぁれ?」

あっ、とハイネは口を押える。
フェナとは8歳の頃に会った事があるが、ここの『フェナ』は別人だ。
相変わらず痩せ気味で華奢なようだが、様子を見る限り、こちらの世界では“健康”なのかもしれない。
背丈も当時より少し伸びているが、ハイネよりは若干低い。

「うちは、その……ハイネっていうて。
後ろのこの人達はうちの友達。
クレイズ先生に手紙をもろてんねんけど、レムリアさんに会える?」

「クレイズ……。
あぁ、パパのおともだちだ。ん、そういうことなら、いいょ」

ついてきて、とフェナはハイネを案内する。
何だか不思議な気分だ。
幼い頃の彼女の様子を知っているからか、今の彼女からは妙に人間味を覚える。



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