「……と、言うのがここ最近の話。
最初は青の国が優勢やったんけども、白の国はナメたらアカン。
あいつら、青の国が軌道に乗ってきたところで叩き潰そうとしてるんや。
青の国かてうちよか裕福やし軍も強いが、白の国はほんまに強い。あの国は建国から一度も敗戦した事がのうてな」

休憩がてら、カレイドヴルフの末端にある店で昼食をとる間に、ユーファはそう語った。

「なんや~。アホな兄ちゃんかと思ったらずいぶん詳しいやんか」

「お、お前なぁ。俺かて王子なんやで?」

もぐもぐとパスタを腹に押し込んだハイネは、胃の空き具合を予想して、デザートの名前の羅列を眺める。

「さーて。こっからが悩み所や。
これから目指すのは黒の国ダインスレフ、だったか。
あそこへ行くには、どうしたって白の国を通る必要がある。それも聖都アルマツィアの一番近いところや。
白の国の港があるカルルって街は、戦線真っ只中。つまり、俺達はほとんど丸腰でドンパチやっとる戦場に入り込む。
巻き込まれたらやばいで。最悪死ぬ」

「でもぼくは行くよ。もう決めたんだ。
ここまできたら、最後までハイネについていくもん。
子供だからって心配してるなら大きなお世話」

「がはは!! アキ坊、お前ちぃっと『男』になったな!
しかしな、今度誘拐されたら……腕の一本二本くらいは覚悟しとけ?」

「う、うるさいな。脅そうったってそうはいかないんだからな!!」

騒がしい男2人の横で、トキは伏し目がちにコップの中の氷を見つめている。

「トキちゃん、元気ないけどどないしたん?」

「あ……すみません。ちょっと、考え事を……」

なになに、と顔を覗き込んでくる無邪気な3人に、トキは躊躇いがちに呟く。

「実は、先日実家の両親に手紙を出したんですけど」

「おお。買い出しの時に買っとったアレか」

「覚えていたんですね、ユーファさん。
……その手紙、まだ返事がきてなくて」

ハイネ達はきょとんとする。

「変なの。アンリ先生もマオリ先輩も、トキちゃんから手紙もろたら嬉しくてすぐ返事くれそうやけど」

「そう、そうなのです。忙しいだけかな、と思ってはいるのですが、その……。
いざ青の国と白の国の戦争を目の当たりにすると、実家の方、大丈夫なのかなって……。
巻き込まれていなければいいのですが」

トキとアキの生まれ育った『麓の集落』は、立地としては赤の国と白の国の境目にあるが、名目上は白の国の領地だ。
とはいえ、地図に載ったり載らなかったりの田舎村である麓の集落に、わざわざ戦火が及ぶ事はなさそうだが……。

「大丈夫だよ、姉ちゃん。
父さんも母さんも強いし。いざとなったら村ごと守ってくれるって!」

「そっか……。そうですね。すみません、妙な空気にしてしまって。そろそろ出発しましょうか?」

「あ、待って、このデザート食べ終わってからね!」

「ハイネ……お前どんだけ食うねん……」

「腹が減っては何とやらって言うやんか!」

昼下がりの頃、一行は白の国の港へ向かうために、副都ニヴィアンまで足を伸ばした。




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