全身をぶつけたような衝撃が走る。
「いったぁ?! なに?!」
驚いて起き上がったハイネはすぐに目を丸くした。
ここはどこだ?
たった今まで、カイヤの研究室にいたはずなのに……――
肌寒い。ゴツゴツした地面の感触。
幼い頃、父と祭りを楽しんだ白の国アルマツィアの光景と、よく似ている。
枯葉を乗せた風を受け、思わずくしゃみをした。
「あの、大丈夫ですか……?」
女性の声がした。
座り込んだまま振り返ると、比較的背の高い少女が心配そうにこちらを見ている。
その右手には鍬が握られていた。
「ぎゃあっ!! 殺さんといて――!!」
「えっ?」
少女は深緑の瞳をパチパチと瞬いた。
麓の集落――……
白の国と赤の国の境目にある、痩せた土地の田舎村。
来た事はなかったが、話には聞いた事があった。確か、担任のアンリがこの村の出身だったはず。
全身土埃にまみれていたハイネを案内してくれた少女は、どうやらこの集落に住む娘のようだ。
彼女は癖がちな長い茶髪を後ろで編み、歩く度にふわふわと揺らしていた。
「驚きました。たまたま村はずれの畑を耕すのを手伝っていたら、突然貴女が降ってきたものですから。
怪我はないみたいですけど、もうすぐ日も暮れますし、とりあえず私の家で休んでください」
「あ、あの、うち……降ってきたん? 君の目の前に?」
「はい。こう……ストンッ、と。
……あ、ごめんなさい。名乗っていませんでした。私はトキといいます。トキ・ナギサ・シュタインです」
どこか聞き覚えのある名字が……――――
「トキ!!
まーた村はずれの入れ歯ジジイの畑など耕していましたの?!
今日のノルマ、教科書1冊の読破は?!
……あら?」
ハイネはトキに案内された家の玄関先で固まる。
「な、な……?!
マオリ先輩じゃ……?!」
ハイネの先輩に当たる貴族令嬢のマオリ……とよく似た淑女が、トキと同じ深緑の瞳をパチパチと瞬く。
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